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岡山地方裁判所 昭和63年(ワ)550号 判決

原告

岡崎賢次

被告

山田起靖

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告に対して、金四八八万二六三二円及びこれに対する昭和六三年二月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は四分し、その三を原告、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告に対して、金二二〇〇万九一三八円及びこれに対する昭和六三年二月一日から完済まで年五分の金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  昭和六三年一月三一日午前六時三〇分頃、岡山市福泊二八七番地先道路上において、亡西川賢太郎(以下、亡西川という)運転の自動二輪車(以下、加害車両という)が、原告運転の原動機付自転車(以下、原告車両という)に側面衝突した。

2  被告山田起靖(以下、被告起靖という)の責任

被告起靖は加害車両の所有者であり、仮に所有者でないとしても、加害車両を運転していた亡西川とは暴走仲間であつて加害車両を亡西川に貸して運転させ、かつ、被告起靖自身も加害車両の後部座席に同乗して亡西川の暴走運転を止めないばかりか、徒に暴走を助長していたものであつて、本件事故の発生につき自賠法三条又は民法七〇九条により損害賠償責任がある。

3  被告山田洋誠(以下、被告洋誠という)の責任

被告洋誠は、子の被告起靖が加害車両を購入して自ら無免許で暴走運転をしたり、他人に貸して暴走運転をさせていたのであるから、被告起靖が、そのような行為をしないよう、交通法規を遵守するよう、そして他人に危害を与えないよう厳重に監督すべき親権者としての法律上及び事実上の義務を負つていたのに、この義務を怠つたものであつて、それが大きな一因となつて本件事故が発生したのであるから、被告洋誠にも民法七〇九条の損害賠償責任がある。

4  傷害と治療経過

別紙記載のとおり

5  損害

(1) 治療費 四二三万七一六五円

うち一万六八五〇円は原告が負担。

(2) 入院付添費 一〇万円

昭和六三年一月三一日から翌二月二四日までの二五日間、医師の要請で原告の妻及び母が付添をした。

一日当たり四〇〇〇円が相当。

(3) 通院交通費 五四万二一〇〇円

片道約一五キロの道程を一三九日間、自家用車で通院した。

一三〇円×一五キロ×二×一三九円

(4) 休業損害金 二一〇万円

三和通信工業有限会社に勤め電話工事の仕事をして毎月手取り一八万程度の収入があり、他に早朝新聞配達のアルバイトで毎月手取り三万円程度の収入があつたので、少なくとも毎月二一万円の収入があつたところ、昭和六三年一二月頃まで、少なくとも一〇か月間就労不能であつた。

二一万円×一〇月

(5) 逸失利益 一二六五万一五二二円

平成元年一一月二四日に症状固定(当時三八歳)した右股・足関節関節可動域制限の後遺症があり、それは後遺障害別等級第一一級に当たり、労働能力喪失率は一四パーセントである。

そして、賃金センサスによると、年収は五一二万六一〇〇円であり、喪失期間は二九年間である。

五一二万六一〇〇円×〇・一四×一七・六二九

(6) 慰謝料 合計五九〇万円

傷害慰謝料 二五〇万円

昭和六三年一月三一日から平成元年一一月二四日まで入通院(入院期間は一二五日)し、一時生死の間をさまよう危険な状態にあつた。

後遺障害慰謝料 三四〇万円

6  損害填補 五五二万一六四九円

7  弁護士費用 二〇〇万円

8  結び

よつて、原告は被告ら各自に対し、未填補損害金二二〇〇万九一三八円及びこれに対する事故翌日の昭和六三年二月一日から完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因の認否

1  1の事実は認める。

2  2の事実は否認する。

加害車両は岡部浩士の所有で、同人から亡西川が借受けて運転していたものであり、被告起靖は単なる同乗者であるから、本件事故についての損害賠償責任はない。

3  3の事実中、被告洋誠が被告起靖の父であることは認めるが、その余は否認する。なお、被告洋誠は被告起靖に対して単車の運転や、同乗を厳しく注意し、被告起靖もこの注意に従う姿勢を示し、そして亡西川が単車で被告ら方に来ることはなかつたので、本件のような事故の発生は予想できないことであつた。

また、仮に被告起靖が加害車両を購入したものであるとしても、被告起靖には小遣銭は月に一〇〇〇円程度与えていたに過ぎず、かつ、加害車両は本件事故前に一度も被告洋誠の支配圏内に持ち込まれたことがなかつたから、購入の事実は全く予測できないことであつた。

4  4の事実は不知。

5  5の事実は争う。

なお、損害の主張に対して、次のとおり主張する。

入院付添費については、医師の診断は二月二一日まで要するものとしている。

通院交通費については、バス通院が充分に可能であるから、片道四八〇円の合計九六〇円が限度である。

逸失利益については、平成元年一月に復職し、半年後に事故前の給与水準に復し、そして、その障害も日常生活では支障がなく、電柱に上ることに支障があつた程度であるし、またその後転職して事故前より高い収入を得ているのであるから、平成元年七月以降の逸失利益は認められないものである。

なお、逸失利益算定の基礎の収入は、有職者の原告の場合、事故前の恒常的な年収二五九万〇九六〇円とするのが相当である。

慰謝料については、過大である。

6  6の事実は認める。

7  7の事実は不知。

第三  証拠は本件記録中の書証、証人等の各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  被告らの責任原因

1  甲第八ないし第一〇号証に証人藤原慎次郎、同岡部浩士、同三村智致の各証言、原告本人尋問の結果(第一回)、被告山田起靖及び同山田洋誠の各本人尋問の結果(いずれも、その一部)によると、以下のような事実を認めることができる。

昭和六三年一月初頃、被告起靖は満一五才で年齢上免許取得の資格を欠くものであつたことから、同被告の家人にも加害車両購入事実を内密にするため、同被告の中学時代の一年先輩で友人の岡部浩士から名義を借りて、同人名義で同人が紹介した友人から、昭和六三年一月初頃、加害車両を代金五万円位で買取つたこと、被告起靖は、暴走族「みなとグループ」に加入していたが、事故当時は前夜から、同じグループに加入している遊び仲間で中学校三年の同級生亡西川と交代で、無免許にもかかわらず改造した加害車両を運転して岡山市内を徘徊していたもので、事故当時は無免許の亡西川が加害車両を運転し、被告起靖が後部座席に同乗していた。

本件事故は、亡西川が運転する加害車両が、先行する藤原慎次郎運転の普通乗用自動車を追い越すため対向車線に入り、制限速度四〇キロを大幅に超える高速度で暴走中、これより相当先に加害車両と同一の方向から進行して来て、現場でアルバイト先の新聞販売店に帰るために道路中央付近から反対車線に入つて右折中の原告車両に、衝突したものであるところ、被告起靖は亡西川の運転する加害車両の後部座席に同乗して右の様な暴走行為を共にしていたものであること、被告起靖は中学一年の頃から無免許で単車や原動機付自転車を乗り回しており、亡西川と共に「みなとグループ」という暴走族に加入していたものであること、そして、被告起靖は中学一年生の頃にも、亡西川らとオートバイの三人乗で自損事故を起こして重傷を負つたことがあり、所轄警察署の交通係においては同被告らの名前は知れ渡つていた。

被告起靖は中学一年の頃プレートの盗みで補導されたり、また喫煙をしたりしていたが、本件事故前から二日に一回位、夜中に家を抜け出して亡西川らと夜通し遊び回つており、本件事故当日も前夜から家を空けていたが、父の被告洋誠はその事実を知らなかつた。

右のとおり認められ、被告山田起靖及び同山田洋誠の各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して措信できない。

なお、前認定のとおり、岡部浩士は自己の名義を貸していたのであるから、その名義で使用者の登録がされ(乙第二号証)、その名義で検査証やナンバープレートの紛失始末書が提出され、その内容が同人の関与するものとなつていること(乙第三号証の五)等は格別異とするに足りないし、また証人西村聡子の証言も、岡部浩士が名義貸人であることを考慮に入れて検討してみると、岡部浩士が名実共に買受人であつたとまでは認めることはできず、前掲岡部証言を覆すに由ない。

他に前認定を覆す証拠はない。

2  以上認定したところによれば、事故当時における加害車両の運行支配と運行利益は被告起靖に帰属していたというべきであるから同被告は自賠法三条により、また同被告は前夜から亡西川と加害車両で岡山市内を徘徊走行し、事故当時は亡西川が無免許で運転する加害車両の後部座席に同乗して亡西川の高速度の追越行為という無謀な行為を共にしていたものであつて、亡西川の右暴走行為の幇助者というべきであるから共同不法行為者として民法七〇九条、七一九条により、それぞれ本件事故による原告の損害の賠償責任があるというべきである。

また、被告洋誠は親権者として、子の被告起靖が無免許運転のような他人に危害を及ぼす恐れのある行為をしないよう、交通法規を遵守するよう監視監督すべき義務を怠つていたといわざるを得ないのであつて、被告洋誠の右義務懈怠が本件事故発生の要因を成しているのであるから、被告洋誠は民法七〇九条により本件事故による原告の損害の賠償責任があるというべきである。

三  甲第二ないし第六、第一一、第一二号証に原告本人尋問の結果(第一、二回)、弁論の全趣旨によると、原告は本件事故により肝、腎損傷、右大腿骨々折、右腓骨々折、右助骨々折等の重傷を負い、事故当日から翌二月四日まで岡山市民病院外科に、翌五日から同年六月四日まで同病院整形外科に各入院し、翌五日から同年一一月二四日までの間に、一〇月二日から同月一一日まで一〇日入院した外、少なくとも一三九日同病院に通院したことが認められる。

なお、甲第一三号証に原告本人尋問の結果(第二回)によると、原告は平成元年一一月二四日現在で、下肢長が右八七・五センチ、左八八センチとなり、右股・足関節の関節可動域制限の後遺障害が残つたことが認められる。

四  損害

(1)  治療費

甲第五、第六、第一二号証によると、治療費として合計四二三万七一六五円を要したことが認められる。

(2)  入院付添費

甲第三号証に原告本人尋問の結果(第一回)、弁論の全趣旨によると、原告は前記入院期間中、二月二一日までの二二日間、体動不能のため付添の要があり、その間母又は妻が付添をしていたことが認められるところ、その付添費は一日当たり三五〇〇円が相当であるから合計七万七〇〇〇円となる。

(3)  通院交通費

原告本人尋問の結果(第一、二回)によると、原告は前認定の後遺障害のため歩行に支障があり、通院期間中自家用車で通院していたところ、自宅から病院まで片道約一五キロあり、ガソリン一リツターで約一八キロ走行できること、ガソリン一リツターは一三〇円であることが認められるので、通院交通費は次式のとおり合計三万〇一一六円となる。

一五キロ×二÷一八×一三〇×一三九日

(4)  休業損害

甲第七号証、原告本人尋問の結果(第一、二回)によると、原告は当時、三和通信工業有限会社に勤め、毎月手取りで一八万円を下らない収入があり、また、早朝の新聞配達により毎月手取りで三万円を下らない収入があつたこと、原告の従事していた作業は電話工事で電柱に上がる仕事であつたところ、本件事故による股関節の可動域が制限された結果、右作業に支障があるため、昭和六三年一一月末まで就労不能であつたことが認められるので、休業損害は次式のとおり合計二一〇万円となる。

(一八万+三万)×一〇月

(5)  逸失利益

甲第一四号証に原告本人尋問の結果(第二回)によると、原告は昭和六三年一二月から元の職場に勤め始めたが、前認定の後遺障害があるため電柱に上る作業に支障があり、一日五〇〇〇円のアルバイトとして復職し、この後半年して正式社員として採用され、事故前と同様の収入額を得ることができるようになつたこと、そして、平成元年七月に転職して事故前よりも多額の収入を得ることができるようになつたこと、原告の後遺障害は歩行に若干支障があるものの、走つたり、あぐらをかくことは可能で、日常生活には格別支障がないものであることが認められ、右事実によれば後遺障害のため、格別の努力を要して事故前と同様ないしそれ以上の収入を得ているものとまでは認め難く、逸失利益は復職後元の収入額に復帰するまでの半年間に限り、一日当たり元の収入額七〇〇〇円(二一万円÷三〇)から実際上得ていた五〇〇〇円との差額の二〇〇〇円というべきであるから、次式のとおり合計三六万円と認定するのが相当である。

(七〇〇〇円-五〇〇〇円)×一八〇日

(6)  慰謝料

〈1〉  傷害分

前認定の傷害の部位、態様、程度、治療経過等に鑑みると、二一〇万円が相当である。

〈2〉  後遺障害分

前認定の後遺傷害の内容、それによる原告の稼働上、生活上の支障の程度等に徴すると、右傷害による慰謝料は一〇〇万円が相当である。

五  損害の填補

原告が合計五五二万一六四九円の損害の填補を受けたことは、その自認するところであるところ、その内訳は、岡山労働基準監督署長に対する調査嘱託の結果によると、労災保険から、

(1)  療養補償給付として四二二万〇三一五円

(2)  休業補償給付として五八万五五〇四円

(3)  傷害補償給付として七一万五八三〇円

の合計五五二万一六四九円の給付を受けたことが認められる。

従つて、原告の未填補損害金は、

(1)  治療費のうち、原告負担の一万六八五〇円(即ち、治療費四二三万七一六五円-療養補償給付四二二万〇三一五円)

(2)  入院付添費の七万七〇〇〇円

(3)  通院交通費の三万〇一一六円

(4)  休業損害及び逸失利益合計一一五万八六六六円、即ち二四六万円(休業損害二一〇万円+逸失利益三六万円)から一三〇万一三三四円(休業補償給付五八万五五〇四円+傷害補償給付七一万五八三〇円)を控除した残額

(5)  慰謝料の三一〇万円

となる。

六  本件事案の難易、訴訟経過、認容額等に徴すると、本件事故と相当因果関係による弁護士費用は五〇万円が相当である。

七  結び

以上の次第であるから、原告の本件請求は、被告ら各自に対して、未填補損害金合計四三八万二六三二円と弁護士費用五〇万円の合計四八八万二六三二円及びこれに対する事故翌日の昭和六三年二月一日から完済まで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がなく棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 三島昱夫)

別紙 原告の障害と治療経過

〈省略〉

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